憧れの「世界一暇なラーメン屋」に行けた話。
ポップとは、裏切られることである。時にはそれが明白であっても。
「世界一暇なラーメン屋」という店が大阪にある。
まあ、閑古鳥が鳴いているというラーメン屋はそこかしこにある。柏に住んでいれば痛感することだ。
都内で「美味しい」ともてはやされている味を劣化コピーしただけの、悪くないがどこでも食べられる味。
そんなものを差し置いて「世界一暇」だと?
そんなわけはない。
こんな店名を付けるということは、つまり自信の現れである。
「うちが世界一忙しいだろう」という思いの発露が店名に出ているのだ。
すなわち。
これはポップだ。
嫌いが好きになり、好きが嫌いになる。
ポップスの常道、裏切りを店舗名に仕込んできたということだ。
ならば、ポップスの伝道師として試さなければならない。
たとえ食べログのスコアが3.7を超えている、美味いとわかりきった店だとしても。
それが見えている地雷だとしても。
踏まなければならない。というか単純に美味いラーメンが食べたい
というわけで行ってきた。
風格のあるメニューだ。この店名を店頭には出していないところといい、ゴシック体を使いこなすラーメン屋は美味いと決まっている。老後にラーメン屋をやるならゴシック体の店名で決まりだ。
置いてあるビールはCOEDO系列。高級志向であり、美味いと決まっているビールである。「COEDOのビールなんかに負けるわけないでしょ、うちのラーメンが」そんな気概さえ感じる。大阪なのに。
そして「うちのラーメン語るならまずチャーシュー食え」とあったので頼んだチャーシュー。美味い。香ばしい。脂は冷え始めて固まっているはずなのに、それを舌がまずいと認識してくれない。それだけの旨味があるチャーシューだ。セットの味玉はジャンケンで負けたので食えなかった。無念。
そして本丸であるラーメン「RED WITCH‘S」は、視覚を惑わすほどのデカい丼にチャーシューが覆いかぶさり、麺は見えない。
しかしチャーシューというラーメン最大の誘惑を振り切り、麺を発掘する。
すると。
全粒粉でもないのに小麦の味を感じ、その時点で舌が降参する。
美味いのだ。
こんなに美味いラーメンを食ったことがない。
卓上にレンゲがあったのに気づきスープを飲む。
これは。
醤油ベースにもかかわらずゴクゴクと飲める。
スープがゴクゴクと飲める、西洋のスープを語源とするならば、これが本物のスープだ。
今まで食べてきたラーメンのスープのほとんどはスープではなかった。
ゴクゴクと飲める「スープ」然としていないからである。
そんな事をしつつもちゃっかりと先ほど到着したチャーシュー増しをスープに浸すと、またさらに旨味が増す。
スープにほんのりとした炙りの香り。
こんな組み合わせに勝てる人間がいるのか?
そうしているうちに、ラーメンとビールがなくなっていた。
一緒に頼んだ肉丼もだ。
今後、大阪を訪れることがあれば必ずまた来たい店舗になった。